ニュースレター「国際契約で失敗しないコツ」を掲載しました。
国際契約で失敗しないコツ
海外取引を始められる時、最初に必要となるのは契約書ですが、多くの場合、現地の言葉、或いは世界共通語としての英語で書かれた契約書が必要になります。多くのお客様が自社で日本語契約書を作成して、その英訳をご希望されます。
裁判、仲裁を日本国内で行うのであれば、そして日本語版が弁護士チェックの入っている様なものであればそれほど大きな問題はありません。しかし、日本語契約書の英訳版と英文契約書は異なるものです。この事はあまり知られておりませんが、輸出入を本格的に始めるのであればとても大切な知識と言えます。
お客様が日本法人であり契約相手が海外法人であるならば、もし、それが可能であるならの話しではありますが、日本語契約書を使用して日本国内で裁判、仲裁を行う方が 圧倒的に有利になります。
もちろん、海外のお客様向けの「日本語契約書の翻訳版」は必須になりますがこれは「外国で作成された契約書」とは全く異なります。あくまで契約相手の日本語契約書の正確な理解のための補助となります。
弊社では日本語版と翻訳版をセットにして「翻訳の正確さを保証する」と同時に「両言語版の間に矛盾抵触がある場合は日本語版を優先する」と明記することをお勧めしています。どんなに正確な翻訳であっても法律用語の使われ方が国により異なるため「解釈の範囲が変わること」も皆無ではないからです。
契約書翻訳で最重要となる3つの項目について、
1つ目は準拠法です。
これは契約書を理解するときに使用する法律のことです。ここは特殊な場合を除き日本法をお勧めします。準拠法が日本法の場合は、契約内容が日本語で書かれていても英語や他の言語で書かれていても日本の法律にしたがって契約内容を解釈することになります。但し、翻訳版の方で契約をすると法律用語の解釈において翻訳言語の国の法慣習に従う(補助準拠法)が認められる可能性があります。日本語版の方で契約すればこのようなリスクも避けられます。
契約が複数の法域に関連する場合の場合は「抵触法の原則の適用排除」の明記をお勧めします。この規定がないと、日本の抵触法で判断する法律の適用となり、適用法が日本法ではなくなることがあります。
2つ目は合意管轄です。
こちらは裁判や仲裁になったとき、裁判や仲裁をする場所のことです。こちらも日本法人であるお客様にとっては「日本国内の裁判所」「あるいは日本国内での仲裁」をお勧めします。もちろん準拠法を日本法として裁判を米国ニューヨーク州でおこなうことも理論的には可能です。日本法に準拠した日本語契約書の英訳版を作成しておいて、合意管轄をニューヨーク州とすることも可能です。ここは、お客様と取引先の綱の引き合いになります。
論点により、日本法の方がより厳しい場合もあり、例外もありますが、基本的に日本国内の方が有利な場合が多いと思われます。少なくても発展途上国を合意管轄にすることはお勧めできません。賄賂が習慣的な国々では公平な裁判や仲裁が望めないからです。
3つ目は契約言語です。
お客様が世界共通語として英語を選択されることが多く散見されます。ここで注意すべきことは世界共通語が存在しても世界共通の法律は存在しないということです。英語を母国語とする国だけでも米国、英国、オーストラリア、ニュージーランドとあり、すべて異なる国です。法律も法律用語も異なります。すでにお気づきと思いますが英国法人との契約内容とオーストラリア法人との契約内容が全く同じでは問題となります。さらに、米国の場合は州法があり州により法律が異なります。
日本の場合と異なりこれら欧米諸国では1種類の契約書ですべてを契約することが多いため日本の契約書より「条項の数」が多くなり、最低でも3倍以上の分量となります。契約書の一般取引条項の中に「本契約書以外の覚書、メモ等は本契約をもってすべて無効とする」様な記載があるのが普通となります。そうなると日本の弁護士の監修済みの契約書の翻訳版であっても現地で使用する契約書としては「ほぼ使用できない」ということになります。
これでは、あまりに大変な作業となってしまい、費用も時間もかかります。そこで1種類の契約書で、取引先を変えても安全に使用できる方法を検討されるケースが多いのですが……それでも配慮すべき点が多々あります。
お客様(日本法人)にとって簡単でお勧めな方法は「準拠法を日本の法律とし」「合意管轄も日本国内」「日本語版を裁判や仲裁で使用する」ことです。 国際契約では、通常の国内の契約書には記載されないことが多い、準拠法の条項を、合意管轄のほかに追記することが必要です。これらは、日本語オリジナルの場合も、英語オリジナルの場合も、両方に追加します。日英の記載内容を同じにする為です。
弊社は、日本法に準拠する「物品販売契約書」の「日本語版オリジナル」の英訳(or 英語版オリジナル)で、国内法以外の法律に準拠してしまう可能性を残すことになる「抵触法の原則の適用排除」や「ウィーン条約の除外」を提案しています。
相手方がこれで承諾すれば、お客様(日本法人)にとって有利になるからです。(外国法準拠の場合、相手方が日本法人に同様のことを求めてくるのと同じです)。したがって、下記のような条項を日本語と英語版(or英訳)の両方に追加することを「ご依頼者側でご検討」頂いています。
- ウィーン条約除外の条項: 国際物品販売契約に関する国連条約は、その全部が、本契約への適用から除外される。
- 法の抵触に関する原則の除外: ……日本国の法律に準拠する……ただし、他管轄の法律の適用を必要とするものである抵触法の原則は除外するものとする。
ウィーン条約は「お互いの国の法律までは詳しく分からないから、妥協して、この条約の条項を使いましょう」という考え方です。弊社は、最終判断は、ご依頼者側に委ねています。
英語版と日本語版の両方を正本とすることは、お勧めできません。どのように正確に翻訳された契約書も、法的解釈には、微妙な差異がでる危険性があるためです。
お客様(日本法人)にとっては、日本語をオリジナル、英訳を日本語理解のための資料とするのが有利です。
弊社なら、裁判となった時の出費は増えますが、ご希望があれば、英語版オリジナル(日本法準拠、合意管轄も国内)とする作業も可能です。その場合も、英訳レベルや本文の内容は変わりません。
但し、オリジナルをどちらにするかでも体裁が異なってきますので、「日本語オリジナル/英訳版参考資料」で、発注されて、納品後、「英語版オリジナル/日本語版参考資料」と変更する場合、その変更作業に、追加料金が必要になります。
いずれの場合も、国際間取引を前提として書かれた翻訳原稿(英文作成用の日本語原稿)の用意が、お客様側で可能な場合を除き、日本語原稿の校閲(訂正・加筆)版と、それに対応する英語版の両方を同時に納品しています。英訳版は原則として米国人弁護士に全文を校閲させています。
上記のほかにも注意点は多くありますが……全部を記載するとあまりに長くなるので割愛させて頂きます。尚、弊社では、どのようなお見積りが、お客様にとって最も適しているかのご相談を翻訳コーディネーターが無料でお受けしています。
(注)契約内容に関する弁護士の戦略的なアドバイスではありません。
現在、弁護士事務所へ英訳を依頼されている少数のお客様を除き、多くのお客様が危険な英訳を契約書として利用されていることを正直、大変懸念しています。又、法律事務所の英訳なのに問題がおきて、弊社で、お客様に確認したところ、法律事務所の事務員がインターネットで安い翻訳会社に依頼していたケースもあります。
弊社でも、不安なのであれば、必ず、米国人弁護士のいる国際契約に明るい弁護士事務所にご相談されることをお奨めします。
弊社の英訳と国際弁護士事務所の英訳で異なる点が1点あります。
弊社では、日本語も英語もどちらが正本であるかに関係なく、裁判官が理解できるレベルまで校閲しています。この点は、弁護士事務所も弊社も同じです。しかしながら、弁護士事務所では、契約内容の見直しを含む戦略的なアドバイスが可能です。このような助言は、弁護士が直接に、お客様からの業務をお受けした場合の除き、翻訳会社を介して、有料でおこなうと「弁護士法違反」になります。したがって、弊社では業務としては、受け付けていません。(英文校閲の担当弁護士から無料で簡単なアドバイスがつくことはありますが……あくまで作業料金外の好意でのコメントです)戦略面でのアドバイスを重視される場合は、弁護士事務所をご利用くださいますようにお願い申し上げます。
弊社の英訳料金は弁護士事務所の1/3程度に設定してあります。又、契約内容を理解しないで、機械的な逐語訳を提供している翻訳会社と比べると、約10%高い料金ではありますが、経験豊富な翻訳家(弁護士の校閲なしの場合)と比べても、格段に安い価格となっています。……弊社の翻訳価格をどのように考えられるかはお客様のご判断にお任せします。ちなみに、契約書翻訳に限り、数量値引き等はおこなっていません。この点は事前にご了承の程よろしくお願いします。
株式会社ドルフィン 代表取締役 小笠原壽男